電車の中で読めないラノベ「ひきこもりパンデモニウム」
史上最強の退魔師・日高見久遠は引きこもりである。肝心の悪魔がやってこないため周囲から家業をバカにされ、久遠が力を発揮するのは自宅警備のみ。兄の春太は妹を学校に行かせようと奮闘するが、久遠の引きこもりスキルは磨きがかかるばかり。そんなある日、ついに念願(?)の悪魔軍が襲来。だが、最強の悪魔王サタンすら久遠の相手ではなく、悪魔軍はあっさりと降伏。しかも成り行きでサタンが地獄に帰れなくなり、退魔師兄妹と悪魔王の奇妙な同居生活が始まってしまった!?最強なのに引きこもりな妹と優しい(?)サタンたちとお贈りするハートフルギャグラブコメディ!
普段は漫画を紹介していますが、たまには小説を。
記念すべき第1回は、壱日千次さん著の「ひきこもりパンデモニウム」です。
この人、以前「社会的には死んでも君を! 」という名作(迷作)を世に出した方です。その前作、主人公は「ラブコメ現象」なるラッキースケベが起こる体質のおかげで社会的に死んでいましたが(注:出会い頭に胸を触ったりスカートに顔を突っ込んだりするのは現実では犯罪となる恐れがあります)、新刊となる今作では、「法力」が一般人には見えない&作用しないあげく、敵となる悪魔が永年出てこないせいで社会的に死んだ退魔師の家族を取り巻く話です。社会的殺人の名手でも目指しているのでしょうかこの作者・・・
物語は、退魔師の家系に養子として引き取られたシスコン・春太(しゅんた)と、最強の退魔師にして最強の自宅警備員であるブラコンの義妹・久遠の元に、待ちに待った悪魔サタンがとうとうやってきたけど・・・という話。
前作でもそうでしたが、キャラクターが真面目そうで変というか、真面目な変態というか、主人公含め煩悩を自然体でまき散らしながらテンポよくトークを繰り広げています。そのセリフ回しは絶妙で、読んでいるとニヤニヤどころか、思わず吹き出してしまいそうなところも。
なので電車の中とかで読むのはオススメできません。うん、僕電車で読んじゃってちょっと後悔したから、うん。
雰囲気を感じ取ってもらえる箇所をいくつか抜粋してみます。
・あこがれの義姉との思い出
「じゃあ、ご褒美に・・・この作品を読み終えるまで朗読してくれたら、一緒に、お風呂に入りましょう!」
「やったあ! うおぉおおおおおおお!!」
春太はテンションを爆発させ、両手をつきあげた。なんとしても今日中に読破するぞと意気込みつつ、
「ところで、それ、なんて作品?」
聖歌は意地悪く笑って、表紙を見せてきた。
「栗本薫著”グイン・サーガ”よ。全部で百五十二巻まであるわ」
「騙された!」
膝から崩れ落ちる春太を、聖歌は、フフフと細い腰に手を当てて見下ろしてくる。
「春太君、これでは何年かかるかわからないわね・・・あれ、どうして、広告紙の裏に計算式を書いているの?」
「俺が十五歳、聖歌姉ちゃんが二十三歳の時、一緒に風呂に入るには一年あたりに何冊読めばいいかを、冷静に計算している」
「その年齢で一緒に入ると、生々しすぎるわ!」
・クラスメイトの美少女と
制服に黒スト姿の沙枝は、不安げな様子で、
「・・・お、おはよう。一昨日はごめんね。妹さんに失礼なことを言って・・・」
”詫びとして、二十五デニールの黒ストを毎日穿き続け、遭遇するたびに引きちぎらせる権利を俺によこせ”
自分が言った冗談を本気にして、今日の彼女は黒ストなのだろう。
春太は「もういいよ」と苦笑して、
「俺が言った二十五デニールの黒ストを穿いてきたというだけで、君の誠意は伝わった」
「見ただけでデニール数がわかったの!?」
・少年時代、「触ったら菌がつく」といじめられている少女に手を差し伸べて
「・・・私、菌がいっぱいついてるの」
「菌? 俺の方がすごいぞ。朝にヤクルト五本飲んだから、生きたまま腸内に達した乳酸菌が七百五十億個はあるんだぞ。俺の勝ちだな」
「なんの話!?」
と、だいたいの雰囲気は掴んでもらえたかと思います。
妹・久遠が絡むと若干濃厚になって抜粋が大変なので、是非本を手に取ってお楽しみください。
こんな感じで、割とまともに見える主人公・春太も一癖二癖ある感じで、一番の常識人が悪魔王サタンというわけのわからない関係状態だったりしますが、軽いノリで笑って読めて、さらにシリアスな展開も引き込まれる内容で、最初から最後まで楽しめる作品です。
あまりにも綺麗に終わって読後感も良かったため1冊で終わってしまうのではと心配でしたが、ちゃんと2巻も出ます。安心しました。
難しいこと考えず、軽い気持ちで面白い本が読みたいという人にオススメです。
前作も面白いので是非(全3巻)。